ホテル・旅館業における外国人雇用──技人国と特定技能「宿泊業」の業務範囲を徹底解説

目次

はじめに

近年、ホテル・旅館業界では、在留資格と実際の業務内容が一致していないケースに対して、入管のチェックがこれまで以上に厳しくなってきています。本来は「専門的・技術的な業務」を行うための在留資格である「技術・人文知識・国際業務(技人国)」を使いながら、現場では接客やレストランサービスなど、資格の範囲外の業務に従事している事例が問題視されているためです。

こうした状況を踏まえ、入管庁は 「ホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格について」 を公表し、宿泊業で外国人を雇用する際の在留資格の考え方をより明確に示しました。これは、業界全体で適正な在留資格の運用を進めるための重要な指針となっています。

宿泊業界にとっては今、「どの在留資格で、どの業務を任せるべきか」 を正しく理解し、コンプライアンスを守りながら外国人雇用を進めることが求められています。本記事では、そのポイントを分かりやすく整理していきます。

入管法別表第一の二の解説

就労ビザの根拠は、入管法(出入国管理及び難民認定法)別表第一の二にあります。ここでは「技術・人文知識・国際業務」外国人には、専門的な知識を要する業務や国際的な業務に従事することが認められています。
つまり、ホテル・旅館業において技術・人文知識・国際業務(技人国)の在留資格で認められる活動は、フロント・企画・管理・専門的な業務であり、単純労働や接客サービスは原則対象外です。

技術・人文知識・国際業務で行うことができる活動

本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(一の表の教授の項、芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで及び企業内転勤の項から興行の項までの下欄に掲げる活動を除く。)

特定技能(1号)で行うことができる活動

法務大臣が指定する本邦の公私の機関との雇用に関する契約(第2条の5第1項から第4項までの規定に適合するものに限る。次号において同じ。)に基づいて行う特定産業分野(人材を確保することが困難な状況にあるため外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野として法務省令で定めるものをいう。同号において同じ。)であつて法務大臣が指定するものに属する法務省令で定める相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する活動

技人国、特定技能(宿泊分野)の業務範囲

二つの在留資格の業務範囲を表にしました。以下の表は簡易的なものですので、表以外の説明も合わせてお読みください。

フロント業務

技人国でも特定技能でも、フロント業務を行うことができます。フロント業務とは、チェックイン/アウト、周辺の観光地情報の案内、ホテル発着ツアーの手配などの業務をいいます。

企画・広報業務

こちらも、技人国、特定技能共に行うことができる業務です。キャンペーン・特別プランの立案、館内案内チラシの作成、HP、SNS等による情報発信などが想定される業務となります。

接客業務

接客業務では旅館やホテル内での案内、宿泊客からの問い合わせ対応などの業務が想定されています。技人国ではこれらの業務を行うことができません。

レストランサービス業務

技人国の資格では、レストランサービス業務に従事することはできません。

「宿泊業」のレストランサービス業務では、注文への応対やサービス(配膳・片付け)、料理の下ごしらえ・盛りつけ等の業務が想定されています。ただし、調理は特定技能の「宿泊業」の資格では従事することができませんので、注意してください。

また、ホテル・旅館内にある宴会場やバー、スナックなどで接待を行わせることは禁止されています。ただし、これらの場所での配膳を行うことはできます。

接待は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(風営法)に以下のように規定されています。

接待とは
風営法第2条第3項

この法律において「接待」とは、歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすことをいう。

これでは何の事かよく分かりませんので、実務では以下の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」という警察庁の通達を、接待に当たるかどうかを見極めるための基準にしています。

「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」

第4 接待について(法第2条第3項関係)
1 接待の定義
接待とは、「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」をいう。
この意味は、営業者、従業者等との会話やサービス等慰安や歓楽を期待して来店する客に対して、その気持ちに応えるため営業者側の積極的な行為として相手を特定して3の各号に掲げるような興趣を添える会話やサービス等を行うことをいう。言い換えれば、特定の客又は客のグループに対して単なる飲食行為に通常伴う役務の提供を超える程度の会話やサービス行為等を行うことである。
2 接待の主体
通常の場合、接待を行うのは、営業者やその雇用している者が多いが、それに限らず、料理店で芸者が接待する場合、旅館・ホテル等でバンケットクラブのホステスが接待する場合、営業者との明示又は黙示の契約・了解の下に客を装った者が接待する場合等を含み、女給、仲居、接待婦等その名称のいかんを問うものではない。
また、接待は、通常は異性によることが多いが、それに限られるものではない。
3 接待の判断基準
(1) 談笑・お酌等
特定少数の客の近くにはべり、継続して、談笑の相手となったり、酒等の飲食物を提供したりする行為は接待に当たる。
これに対して、お酌をしたり水割りを作るが速やかにその場を立ち去る行為、客の後方で待機し、又はカウンター内で単に客の注文に応じて酒類等を提供するだけの行為及びこれらに付随して社交儀礼上の挨拶を交わしたり、若干の世間話をしたりする程度の行為は、接待に当たらない。
(2) ショー等
特定少数の客に対して、専らその客の用に供している客室又は客室内の区画された場所において、ショー、歌舞音曲等を見せ、又は聴かせる行為は接待に当たる。
これに対して、ホテルのディナーショーのように不特定多数の客に対し、同時に、ショー、歌舞音曲等を見せ、又は聴かせる行為は、接待には当たらない。
(3) 歌唱等
特定少数の客の近くにはべり、その客に対し歌うことを勧奨し、若しくはその客の歌に手拍子をとり、拍手をし、若しくは褒めはやす行為又は客と一緒に歌う行為は、接待に当たる。
これに対して、客の近くに位置せず、不特定の客に対し歌うことを勧奨し、又は不特定の客の歌に対し拍手をし、若しくは褒めはやす行為、不特定の客からカラオケの準備の依頼を受ける行為又は歌の伴奏のため楽器を演奏する行為等は、接待には当たらない。
(4) ダンス
特定の客の相手となって、その身体に接触しながら、当該客にダンスをさせる行為は接待に当たる。また、客の身体に接触しない場合であっても、特定少数の客の近くに位置し、継続して、その客と一緒に踊る行為は、接待に当たる。
ただし、ダンスを教授する十分な能力を有する者が、ダンスの技能及び知識を修得させることを目的として客にダンスを教授する行為は、接待には当たらない。
(5) 遊戯等
特定少数の客と共に、遊戯、ゲーム、競技等を行う行為は、接待に当たる。
これに対して、客一人で又は客同士で、遊戯、ゲーム、競技等を行わせる行為は、直ちに接待に当たるとはいえない。
(6) その他
客と身体を密着させたり、手を握る等客の身体に接触する行為は、接待に当たる。ただし、社交儀礼上の握手、酔客の介抱のために必要な限度での接触等は、接待に当たらない。
また、客の口許まで飲食物を差出し、客に飲食させる行為も接待に当たる。
これに対して、単に飲食物を運搬し、又は食器を片付ける行為、客の荷物、コート等を預かる行為等は、接待に当たらない。

抜粋:Taro-風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について(通達)

販売、備品の点検・交換等

旅館やホテル内における、販売、備品の点検・交換業務関連業務として従事することができます。また、清掃、ベッドメイキングなどもこのカテゴリーに入ります。

ただし、これらの業務を主業務として、「宿泊業」の特定技能外国人に任せることはできません。あくまで関連業務、付随業務として従事してもらってください。

技人国の例外

技人国の在留資格だからといって、接客やレストランサービス、販売などの業務に一瞬たりとも携わってはいけないというわけではありません。以下の場合には例外が認められています。

  1. 通訳として宿泊客に応対する場合
  2. 採用当初の実務研修期間に研修の一環として行う場合
  3. フロント業務に従事している最中に、急遽宿泊客の運搬等を行う必要があった場合

以下のブログ記事で詳しく解説していますので、気になる方は合わせてお読みください。

特定技能「宿泊業」の注意点

特定技能「宿泊業」は幅広い業務に従事できる資格ですが、特定の業務だけを専任させることはできません。宿泊業分野で定められた業務を、網羅的に行うことが求められています。

ただし、一定期間は一つの業務に従事し、その後別の業務へ順次配属を変更することで、結果として全ての業務を経験させる運用は可能です。
重要なのは「最終的に宿泊業分野の業務全般を行える状態にすること」です。

まとめ:より多くの業務を担当してもらうには特定技能が必要

ホテル・旅館業の現場では、接客・配膳・清掃など幅広い業務を外国人スタッフに担ってもらうことが求められます。
しかし、技人国では業務範囲が限定されるため、現場のニーズに応えることは難しいのが現実です。

特定技能であれば、現場の主要業務に幅広く従事可能であり、所属機関にとってもコンプライアンス違反のリスクを回避できます。


外国人雇用においては、在留資格ごとの業務範囲を正しく理解することが不可欠です。
「技人国=専門業務(ホワイトカラー)」「特定技能=現場業務(ブルーカラー)」という整理を踏まえ、所属機関は今後の採用戦略を見直す必要があります。

まずはお気軽にご相談ください。御社の状況に合わせた外国人採用をサポートいたします。

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この記事を書いた人

大阪府箕面市の行政書士です。
・趣味:美術鑑賞、散歩
・スポーツ:卓球、テニス
・座右の銘:失敗は成功のもと
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