はじめに
「特定技能のスタッフに、この業務を任せても大丈夫なのだろうか」
そんな不安を感じたことはありませんか。
特に、旅館やホテルでは“接待行為”に該当するかどうかの判断が難しく、風営法との関係で思わぬリスクが生じることがあります。
本記事では、ホテル・旅館が「宿泊分野」と「飲食業分野」の特定技能外国人を雇用する際に、特に注意すべきポイントを分かりやすく整理しました。日々の業務や人材管理の場面で、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
「宿泊分野」で特定技能を受け入れるための事業形態
対象となるホテル・旅館の形態
- 旅館・ホテル(「旅館業」法第2条第2項に規定する旅館・ホテル営業の許可を受けている施設)
「宿泊分野」は、まさにホテルや旅館で働くための在留資格であるため、対象となる施設の範囲は非常にシンプルです。
ただし、以下のような形態の宿泊施設は対象外となりますので、注意が必要です。
宿泊分野でホテル・旅館として認められない形態
- ラブホテルなど(「風営法」第2条第6項4号に規定する施設)
- 簡易宿所(ゲストハウス、ドミトリー型ホステル、カプセルホテルなど)
- 下宿
ホテル・旅館において「外食業分野」で特定技能1号を受け入れるための事業形態
ホテル・旅館において「外食業分野」で特定技能の受け入れ可能な場所
- ホテル・旅館内の厨房・飲食を提供する場所
- ホテル・旅館内の飲食店
- ホテル・旅館敷地内の飲食店
- 風営法第3条第1項の許可を得ているホテル・旅館内の宴会場など
風俗営業を営もうとする者は、風俗営業の種別(前条第一項各号に規定する風俗営業の種別をいう。以下同じ。)に応じて、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の許可を受けなければならない。
風営法第3条第1項の許可を得ているホテル・旅館とは、施設内で「接待行為」に該当するサービスを提供するホテル・旅館です。
たとえば、宴会にコンパニオンを呼ぶケースが典型例です。バンケットクラブなどから派遣される女性スタッフが、華やかな衣装でお酌をしたり、歌を一緒に歌ったりする行為は、風営法上の接待に該当します。
また、旅館内にバーやスナックといった飲食店を併設している場合もありますが、これらの店舗で接待を伴う営業を行うのであれば、旅館であっても風俗営業許可を取得していることがあります。
ただし、ここで誤解してはならないのは、特定技能外国人が接待行為を行うことは認められていないという点です。接待を行う場所で働くこと自体は可能ですが、接待行為そのものは法律で明確に禁止されています。
つまり、宴会場やバーの配膳や会場のセッティングといった業務は問題ありませんが、お客様にお酌をしたり、会話を伴う応対、カラオケの相手をするなどの行為は一切できません。
-外食業分野の基準について-
第3 特定技能雇用契約の適正な履行の確保に係る基準
特定技能外国人に、風営法第2条第1項に規定する風俗営業を営む営業所において就労させてはなりません。ただし、旅館業法第3条第1項の旅館・ホテル営業の許可を受けた者が営む同法第2条第2項に規定する旅館・ホテル営業に係る施設に設けられた営業所であって、風営法第3条第1項の許可(風営法第2条第1項第1号に規定する風俗営業の種別に係るものに限る。)を受けて営んでいる風俗営業の営業所であれば、就労させることは可能です。
具体的には、旅館・ホテルの宴会場等で接待を伴う飲食提供がある場合でも、当該旅館・ホテルのレストランや宴会場等において、外食業全般の業務に従事することができます。
抜粋:出入国在留管理局|特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領
ホテル・旅館において「外食業分野」で特定技能の受け入れ不可能な場所
- 「性風俗関連特殊営業」を営むホテル・旅館(「風営法」第2項第5条)
「性風俗関連特殊営業」は、「風営法」第2条第6~10項に規定されています。具体的内は以下のような業態をいいます。このような業態の施設を併設するホテル・旅館では、たとえ飲食を提供する営業であっても、「外食業分野」の特定技能外国人を雇用することはできません。
6項1号 ソープランド
2号 ファッションヘルス
3号 ストリップ
4号 ラブホテル等
5号 アダルトショップ
6号 出会い系喫茶
店舗型性風俗特殊営業
7項 無店舗型性風俗特殊営業(デリヘル、アダルトグッズ販売)
8項 映像送信型性風俗特殊営業(アダルト映像配信)
9・10項 店舗・無店舗型電話異性紹介営業(テレホンクラブ)
抜粋:警視庁|風営適正化法の概要
接待とは
「風営法」では、接待について以下のように定められています。
風営法第2条第3項
この法律において「接待」とは、歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすことをいう。
これでは何の事かよく分かりませんので、実務では以下の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」という警察庁の通達を、接待に当たるかどうかを見極めるための基準にしています。
第4 接待について(法第2条第3項関係)
1 接待の定義
接待とは、「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」をいう。
この意味は、営業者、従業者等との会話やサービス等慰安や歓楽を期待して来店する客に対して、その気持ちに応えるため営業者側の積極的な行為として相手を特定して3の各号に掲げるような興趣を添える会話やサービス等を行うことをいう。言い換えれば、特定の客又は客のグループに対して単なる飲食行為に通常伴う役務の提供を超える程度の会話やサービス行為等を行うことである。
2 接待の主体
通常の場合、接待を行うのは、営業者やその雇用している者が多いが、それに限らず、料理店で芸者が接待する場合、旅館・ホテル等でバンケットクラブのホステスが接待する場合、営業者との明示又は黙示の契約・了解の下に客を装った者が接待する場合等を含み、女給、仲居、接待婦等その名称のいかんを問うものではない。
また、接待は、通常は異性によることが多いが、それに限られるものではない。
3 接待の判断基準
(1) 談笑・お酌等
特定少数の客の近くにはべり、継続して、談笑の相手となったり、酒等の飲食物を提供したりする行為は接待に当たる。
これに対して、お酌をしたり水割りを作るが速やかにその場を立ち去る行為、客の後方で待機し、又はカウンター内で単に客の注文に応じて酒類等を提供するだけの行為及びこれらに付随して社交儀礼上の挨拶を交わしたり、若干の世間話をしたりする程度の行為は、接待に当たらない。
(2) ショー等
特定少数の客に対して、専らその客の用に供している客室又は客室内の区画された場所において、ショー、歌舞音曲等を見せ、又は聴かせる行為は接待に当たる。
これに対して、ホテルのディナーショーのように不特定多数の客に対し、同時に、ショー、歌舞音曲等を見せ、又は聴かせる行為は、接待には当たらない。
(3) 歌唱等
特定少数の客の近くにはべり、その客に対し歌うことを勧奨し、若しくはその客の歌に手拍子をとり、拍手をし、若しくは褒めはやす行為又は客と一緒に歌う行為は、接待に当たる。
これに対して、客の近くに位置せず、不特定の客に対し歌うことを勧奨し、又は不特定の客の歌に対し拍手をし、若しくは褒めはやす行為、不特定の客からカラオケの準備の依頼を受ける行為又は歌の伴奏のため楽器を演奏する行為等は、接待には当たらない。
(4) ダンス
特定の客の相手となって、その身体に接触しながら、当該客にダンスをさせる行為は接待に当たる。また、客の身体に接触しない場合であっても、特定少数の客の近くに位置し、継続して、その客と一緒に踊る行為は、接待に当たる。
ただし、ダンスを教授する十分な能力を有する者が、ダンスの技能及び知識を修得させることを目的として客にダンスを教授する行為は、接待には当たらない。
(5) 遊戯等
特定少数の客と共に、遊戯、ゲーム、競技等を行う行為は、接待に当たる。
これに対して、客一人で又は客同士で、遊戯、ゲーム、競技等を行わせる行為は、直ちに接待に当たるとはいえない。
(6) その他
客と身体を密着させたり、手を握る等客の身体に接触する行為は、接待に当たる。ただし、社交儀礼上の握手、酔客の介抱のために必要な限度での接触等は、接待に当たらない。
また、客の口許まで飲食物を差出し、客に飲食させる行為も接待に当たる。
これに対して、単に飲食物を運搬し、又は食器を片付ける行為、客の荷物、コート等を預かる行為等は、接待に当たらない。
抜粋:Taro-風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について(通達)
風営法の許可を受けたホテル・旅館で特定技能外国人を雇用する場合
「宿泊分野」の場合
「風営法」第3条1項の許可を受けたホテル・旅館が、「宿泊分野」の特定技能外国人を雇用することに特に制限はありません。ただし、「飲食業分野」と同じく、接待は固く禁じられています。
る省令第2条第1項第13号及び第2項第7号に規定する告示
第2条1項
ハ 1号特定技能外国人及び2号特定技能外国人に、風営法第2条第3項に規定する接待を行わせないこととしていること。
「飲食業分野」の場合
「飲食業分野」で風営法第3条1項の許可を受けたホテル・旅館で雇用する場合には、食品産業特定技能協議会に通常より多くの書類を提出する必要があります。
以下が追加で必要な書類です。
・「対象旅館等における特定技能外国人の受入れに関する誓約書」
(PDF : 188KB)(WORD : 19KB)
・旅館業法の旅館・ホテル営業に係る「営業許可証」の写し
・風営法の風俗営業に係る「営業許可証」の写し
・接待防止マニュアル
(業界団体が作成したマニュアルのひな形を基に作成したもの)
まとめ
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「風営法」第3条1項の許可を受けたホテル・旅館で接待が行われる場合でも、特定技能「宿泊分野」および「飲食業分野」の外国人を雇用すること自体は可能です。ただし、いずれの分野であっても、特定技能外国人に接待行為をさせることは認められていません。
配膳や会場セッティングといった通常業務は問題なく行えますし、水やお茶を注いでそのまま離れる行為も許容されています。しかし、お酌をして会話を交わしたり、カラオケの相手をするなど、接待に該当する行為は一切禁止されています。
また、同じホテル・旅館であっても、「宿泊分野」で特定技能外国人を雇用する場合には追加手続きは不要ですが、「飲食業分野」で雇用する場合には、食品産業特定技能協議会への追加の書類提出が必要となります。入管ではなく、協議会への提出である点にご注意ください。
もし、特定技能外国人の業務範囲や手続きについて不安がある場合や、貴社の状況に合わせて整理したい点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。必要な部分だけでも、丁寧にサポートいたします。

