前回のブログ記事では、「経営・管理」ビザの要件(ようけん)を書きましたが、今回のブログ記事では、出入国在留管理庁が公表した「「経営・管理」の在留資格の明確化等について」という文書をもとにして、より詳しい審査の基準を見ていきたいと思います。
「経営・管理」の在留資格の明確化とは?
令和4年10月に、「「経営・管理」の在留資格の明確化等について」という文書がが出入国在留管理庁から公表されました。
これは、「経営・管理」ビザを申請する人が、何に注意して申請すれば許可を得やすいのか、またはどういった内容では許可できまないのか、ということをはっきりとさせて、申請をする前にチェックできるようにしたものです。
令和5年 4月と令和6年 3月の2回の改訂が行われ、今に至ります。
審査(しんさ)のポイント
入管(にゅうかん)の審査官が特に気にしてるポイントが次の3つになります。
- 申請をする外国人が、ビジネスの経営または管理に本当に参加しているか。
- 外国から日本に来てビジネスを行おうとする場合ービジネスを行うための事業所が省令(上陸基準省令)どおりに用意できているか。
- すでに「経営・管理」ビザで日本でビジネスをしていて、ビザを更新(こうしん)をする場合ービジネスを続けていけるかどうか。日本でビジネスをするうえで、社長として義務を果たしてきたかどうか。
1、申請をする外国人が、ビジネスの経営または管理に本当に参加しているか
ビジネスに参加しているとは、申請をする外国人が、普通社長や管理職の人がするであろう仕事をすることをいいます。例えば、大切な決定をする、ビジネスを取り仕切る、チェックの仕事をすることです。名前だけの社長や管理職ではだめです。
よくあるケースで、日本で成功し、永住許可をもっている社長が、親を取締役として「経営・管理」ビザを申請するということがあります。ですが、あまりにも高齢であったり、今までビジネスをしたこともない、同じ業種で働いたこともない親であれば、「単に親を呼び寄せたいだけなのでは?」と審査官に疑われてしまします。
本当にビジネスをする人、つまりできる人でないと、ビザの許可は難しいでしょう。
2、外国から日本に来てビジネスを行おうとする場合ー事業所が用意できているか
上陸基準省令の「経営・管理」の項の1号には、「事業を営むための事業所として使用する施設が本邦に確保されていること」または「事業を営むための事業所が本邦に存在すること」とする基準が定められています。
事業所(じぎょうしょ)とは、ビジネスや仕事を行うための場所や施設のことです。例えば、オフィス、工場、店舗、倉庫などが事業所にあたります。
事業所については、総務省が定める「日本標準産業分類一般原則第二項」において、次のように規定されています。
- 経済活動が単一の経営主体のもとにおいて一定の場所すなわち一区画を占めて行われていること。
- 財貨及びサービスの生産又は提供が、人及び設備を有して、継続的に行われていること。
経済活動が単一の経営主体のもとにおいて一定の場所すなわち一区画を占めて行われていること
外国から日本に来てビジネスを始めようとする場合、あまりオフィスにお金をかけたくありませんよね。また、住む場所も必要になるので、できればオフィスと住む場所を同じにしたいと思われることでしょう。
結論から言うと、オフィスと住居を同じにすることはできます。ただし、オフィスと住居をはっきりと区分しなければなりません。
例えば、マンションなどで、手前が店舗、奥が住居という場合は認められにくいです。一軒家の1階が店舗で2階が住居ですと認められやすくなります。
また、賃貸契約書に「住居用」などの記載がある場合には、特約を結ぶなどして、オフィスや店舗として使用してもよいとの許可を得ておく必要があります。
財貨及びサービスの生産又は提供が、人及び設備を有して、継続的に行われていること
タイトルの「継続的(けいぞくてき)に」下線を引きました。「継続的に」とは続けてという意味です。ですので、短い期間の賃貸契約(月単位とか)では申請はとおりません。できれば2年以上の契約が望ましいです。また、屋台(やたい)を使ったビジネスも認められません。屋台はすぐに処分できてしまうので、「日本で継続的にビジネスをする気持ちがない」とみなされてしまうからです。
賃貸で事業所を用意するときの要件
外国人が日本でビジネスを行う場合、いきなり事業所を買って始める人は少ないでしょう。今まで書いてきた内容と重なりますが、賃貸で事業所を借りる場合に守らなければならない基準をまとめました。以下の基準は、全て守る必要があります。
- 使用の目的を事業用、店舗、事務所など、事業目的であることを明確にすること。
- 賃貸借契約者(ちんたいしゃくけいやくしゃ)を自分の会社の名義にすることにより、会社として使用することを明確にすること。
- 住居用として賃している物件の一部でビジネスをする場合は、次の全てを満たすことが必要です。
- 貸主(かしぬし)が住居以外の使用を認めていること。
- 借主(かりぬし)も自分の会社が事業所として使用することを認めていること。
- 会社が事業を行うためのビジネス用の部屋があり、ビジネスをするための設備などが準備されていること。
- その物件で発生する公共料金などの共用費用の支払に関して、きちんと取決めがされていること。
- 看板などの標識を掲げていること。
3、ビザを更新をする場合ービジネスを続けていけるかどうか。社長として義務を果たしてきたかどうか。
ビジネスを続けていけるかどうか
3については、ビザの更新の審査で確認されることです。ビジネスを続けていけるかどうかは、決算状況だけでなく、賃借状況も含めて総合的に判断されます。決算は直近2期の決算を審査されます。
審査の基準を次の2つの場合に分けて書いていきます。
- 直近期又は直近期前期において売上総利益(うりあげそうりえき)がある場合
- 直近期及び直近期前期において共に売上総利益がない場合
1、直近期又は直近期前期において売上総利益がある場合
直近期において当期純利益(とうきじゅんりえき)があり同期末において剰余金(じょうよきん)がある場合には、事業の続けることができると認められます。また、直近期において当期純損失(とうきじゅんそんえき)となっても、売上総利益(うりあげそうりえき)があることを前提とし、剰余金が減少したのみで欠損金が生じないものであれば、事業の続けることができると認められます。(事業を続ける上で、重大な影響はないとみなされるため。)
したがって、直近期末において「剰余金がある場合」または「剰余金も欠損金もない場合」には、事業の続けることができると認められます。
事業計画、資金調達等の状況によって、将来にわたって事業が継続できるだろうと見込まれるため、今後1年間の事業計画書(じぎょうけいかくしょ)と予想収益(よそうしゅうえき)を示した資料の提出が求められます。
事業が行われていることを疑われない限りは、原則として事業の継続性(安定して運営されること)があると認められます。
ただし、資料の内容によっては、中小企業診断士や公認会計士などの公的資格(企業評価を行う能力があると認められる公的資格)を持つ第三者が評価を行った書面の提出を追加で求められる場合もあります。書面には評価の根拠(裏付けのこと)となる理由も必要です。
直近期前期末では債務超過となっていない場合
債務超過となった場合、一般的には会社の信用が落ちますので、事業を続けていくことは難しいと思われますし、事業を続けていけるとは認められにくいです。
ですが、債務超過(さいむちょうか)が1年以上継続(けいぞく)していない場合に限り、1年以内に具体的な改善(債務超過の状態でなくなること)の見通しがあると認められれば、事業を続けていけるだろうとみなされます。
具体的には、直近期末において債務超過であっても、直近期前期末では債務超過となっていない場合には、中小企業診断士や公認会計士などの公的資格(企業評価を行う能力があると認められる公的資格)を持つ第三者が、改善の見通しについて評価を行った書面の提出が求められ、この書面を参考として事業が継続できるかどうかが判断されます。
書面には、1年以内に債務超過の状態でなくなることの見通しと、その理由が記載されていなければなりません。
債務超過となって1年以上経過しても債務超過の状態でなくならなかったときは、事業の存続について厳しい財務状況(ざいむじょうきょう)が続いていること及び1年間での十分な改善がなされていないことから、原則として事業の継続性があるとは認められません。
ですが、新興企業(しんこうきぎょう)(設立5年以内の国内非上場企業のことをさします。)がオリジナリティのある技術やサービス、新しいビジネスモデル等にもとづき事業を成長させようとする時は、始めは赤字が続くことも考えられます。
ですので、新興企業については、以下の書類を提出することで、事業の継続性が判断されます。債務超過に合理的な理由があると判断された場合には、事業の継続性が認められる場合があります。
○ 中小企業診断士や公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が、改善の見通し(1年以内に債務超過の状態でなくなることの見通しを含む。)について評価を行った書面(評価の根拠となる理由が記載されているものに限る。)
○ 投資家やベンチャーキャピタル、銀行等からの投融資、公的支援による補助金や助成金等による資金調達に取り組んでいることを示す書類
○ 製品・サービスの開発や顧客基盤(こきゃくきばん)の拡大等に取り組んでいることを示す書類
2、直近期及び直近期前期において共に売上総利益がない場合
企業の主たる業務において売上高が売上原価を下回るということは、儲ける気がないと判断されますので、通常の企業活動を行っているものとは認められません。
仮に営業外損益、特別損益により利益を確保したとしても、それが本来の業務から生じているものではないため、これも認められません。
単期に特別な事情から売上総利益がない場合があることも考えられので、二期連続して売上総利益がないということはその企業が主たる業務を継続的に行える能力があるとは認められません。この場合には原則として事業の継続性があるとは認められません。
ただし、新興企業がオリジナリティのある技術やサービス、新しいビジネスモデル等に基づき事業を成長させようとする場合、始めはは赤字が続くことも考えられます。
ですので、新興企業については、以下の書類で、「売上総利益がない状態となっていることについて合理的な理由がある」と判断された場合には、事業の継続性が認められる場合があります。
○ 中小企業診断士や公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が、改善の見通し(1年以内に売上総利益がない状態でなくなることの見通しを含む。)について評価を行った書面(評価の根拠となる理由が記載されているものに限る。)
○ 投資家やベンチャーキャピタル、銀行等からの投融資、公的支援による補助金や助成金等による資金調達に取り組んでいることを示す書類(十分な手元流動性があるなど当面の資金調達の必要性がない場合は当該状況を示す書類)
○ 製品・サービスの開発や顧客基盤の拡大等に取り組んでいることを示す書類
社長として義務を果たしてきたかどうか
ここでの社長としての義務とは、公的なお金の支払いをきちんと行うことです。つぎの二つの支払いが求められます。
- 税金を支払ってきたか
- 労働関係の法律を守り、支払いをしてきたか
国税(所得税、法人税等)と地方税(住民税等)をきちんと支払ってきたかが問われます。
次のようなケースでは、ネガティブな評価を受けます。
- 税金を納めていないために、刑を受けている。
- 大きな金額の納めていない税金がある。
- 税金を納めていない期間が長い。
- 消費税の不正受還付等により重加算税賦課決定処分があった。
消費税の課税仕入れの対象とならない従業員給与の一部を、消費税の課税仕入れの対象となる外注費に仮装し、架空の請求書を作成するなど、課税仕入れに係る消費税額を過大に計上し、不正に還付を受けること。
雇用する従業員(アルバイトを含む)の労働条件が労働関係の法律を守って決められていなければなりません。その上で、保険の加入手続を行い、保険料を支払っていることが求められます。
その他、健康保険と厚生年金保険に入る必要のある事業所は、これらの保険の加入手続を行っていること、それと雇用する従業員の側の健康保険と厚生年金保険の資格取得手続を行い、保険料を支払っていることが求められます。
これらの事を守っていないとネガティブな要素として評価されます。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。
入管が「経営・管理」ビザの審査をするときに、特に気にする点を「「経営・管理」の在留資格の明確化等について」を基にして、できるだけ分かりやすい日本語で書いてきました。
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