実務研修は悩ましい
前回と前々回のブログ記事で、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確な要件が、平成20年3月に公表されたことをお伝えしました。今回は、その中で明らかになった「実務研修」の要件についてお話したいと思います。
この「実務研修」の考え方は、それまでははっきりとしていなかった為、行政書士にとっても大変悩ましい問題でした。
何が悩ましいのかというと、どういった業務で、どれぐらいの期間であれば、「実務研修」として認められるのかが分からなかったからです。「実務研修」の内容や期間がなぜ問題になるのかというと、「技術・人文知識・国際業務」の外国人は、できる仕事の範囲が学術上の素養を背景とする一定水準以上の業務に限定されているからです。詳しくは下記のブログ記事に記載しましたので、よろしければこちらをご覧ください。
外国人が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で在留するするためには、学術上の素養を背景とする一定水準以上の業務に従事しなければなりません。ざっくり言うと学術上の素養を背景とする一定水準以上の業務とはホワイトカラーの業務であり、この在留資格をもつ外国人を技術取得の簡単な現場作業などに従事させることはできません。
そして、この要件を無視したようなビザ申請をした場合は、不許可になる可能性が高くなります。
しかし、日本人の新人や中途採用の人などが、学術上の素養を背景とする一定水準以上の業務の前に、実務研修として現場に派遣されることは良くあることです。
ですので、今までも、「実務研修」の中で、学術上の素養を背景とする一定水準以上の業務以外の業務に従事することを禁じてきたわけではありません。
ただ、どこまでなら許されるのかの判断をする材料に乏しく、平成20年に要件が公表されるまでは、「実務研修」期間が3カ月を超えると不許可になるのではないかと言われていました。
ここからは、実際に公表された文書から、明確になった要件を見ていきましょう。
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で許容される実務研修について
平成20年3月に公表された「「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について」の別紙1は「「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で許容される実務研修について」という文書です。この中で、「実務研修」の具体的な要件が記されています。
「「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で許容される実務研修について」は次の4つの項目で構成されています。
- 実務研修の取扱
- 「在留期間中」の考え方
- 研修計画等
- 在留期間の決定について
それでは、その中身を見ていきましょう。
1 実務研修の取扱
外国人が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で在留するためには、当該在留資格に該当する活動、すなわち、学術上の素養を背景とする一定水準以上の業務に従事することが必要です。
他方で、企業においては、採用当初等に一定の実務研修期間が設けられていることがあるところ、当該実務研修期間に行う活動のみを捉えれば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当しない活動(例えば、飲食店での接客や小売店の店頭における販売業務、工場のライン業務等)であっても、それが日本人の大卒社員等に対しても同様に行われる実務研修の一環であって、在留期間中の活動を全体として捉えて、在留期間の大半を占めるようなものではないようなときは、その相当性を判断した上で当該活動を「技術・人文知識・国際業務」の在留資格内で認めています。
出典:出入国在留管理庁https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan69.html
「1 実務研修の取扱」の項では、「実務研修」の中でなら、外国人が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で従事してよいとされている業務以外の業務をしてもかまわない、と言っています。例えば、飲食店での接客や小売店の店頭における販売業務、工場のライン業務がそれらの業務に当たります、と例示してくれていますね。
ただし、当然のことながら、無制限には認められずません。ではどれぐらいなら認められるのかというと、「在留期間中の活動を全体として捉えて、在留期間の大半を占めるようなものではないようなとき」であれば認めますと書いてあります。
「在留期間中の活動を全体として捉えて」ってどういうこと?と思いますよね。その疑問は次の項で答えてくれています。
2 「在留期間中」の考え方
この研修期間を含めた在留資格該当性の判断は、「在留期間中の活動を全体として捉えて判断する」ところ、ここでいう「在留期間中」とは、一回の許可毎に決定される「在留期間」を意味するものではなく、雇用契約書や研修計画に係る企業側の説明資料等の記載から、申請人が今後本邦で活動することが想定される「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもって在留する期間全体を意味します。
そのため、例えば、今後相当期間本邦において「技術・人文知識・国際業務」に該当する活動に従事することが予定されている方(雇用期間の定めなく常勤の職員として雇用された方など)が、在留期間「1年」を決定された場合、決定された1年間全て実務研修に従事することも想定されます。
他方で、雇用契約期間が3年間のみで、契約更新も予定されていないような場合、採用から2年間実務研修を行う、といったような申請は認められないこととなります。
なお、採用から1年間を超えて実務研修に従事するような申請については、下記3に記載する研修計画の提出を求め、実務研修期間の合理性を審査します。
出典:出入国在留管理庁https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan69.html
「在留期間中」の考え方が、分かりやすく説明されています。要約すると、「在留期間中」とは1回の申請で許可された期間ではなく、雇用主である企業側が、その外国人を雇用しようとしている期間全体をいいますよ、と言っています。
ですので、今後当該外国人を、ある程度長期に渡って雇用するつもりでビザ申請をして、在留期間が「1年」の許可しか下りなかったとしても、その1年全てを研修期間にしてもかまわないということです。
ただし、3年ぐらいしか雇用する気がないのに、2年の研修期間とかは無理ですよ、と釘を刺していますね。
また、1年以上の研修をする場合には、「研修計画」を提出しなければなりません。
3 研修計画等
研修期間として部分的に捉えれば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当しない活動を行う必要がある場合、必要に応じ、受入れ機関に対し日本人社員を含めた入社後のキャリアステップ及び各段階における具体的職務内容を示す資料の提出をお願いすることがあります。
当該実務研修に従事することについての相当性を判断するに当たっては、当該実務研修が外国人社員だけに設定されている場合や、日本人社員との差異が設けられているようなものは、合理的な理由(日本語研修を目的としたようなもの等)がある場合を除き、当該実務研修に従事することについての相当性があるとは認められません。
なお、採用当初に行われる実務研修の他、キャリアステップの一環として、契約期間の途中で実施されるような実務研修についても、同様に取り扱っています。
出典:出入国在留管理庁https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan69.html
「2 「在留期間中」の考え方」で述べられていた「研修計画」を出すよう指示されるかもしれませんよ、という文章ですね。
「実務研修」の相当性の判断とは、実務研修をすることがふさわしいかどうかの判断ということです。外国人にだけ実務研修をさせたり、同じ業務をする日本人とは異なる内容や期間の実務研修を課すことは、「ふさわしくない」と判断され、ビザ申請は不許可になってしまうと考えられます。
ただし、日本語研修などであれば、日本人と異なる研修でも合理的な理由があるので認めます、と明記されていますね。
4 在留期間の決定について
これら実務研修期間が設けられている場合、実務研修を修了した後、「技術・人文知識・国際業務」に該当する活動に移行していることを確認する必要があるため、在留資格決定時等に、原則として在留期間「1年」を決定することとなります。
なお、在留期間更新時に当初の予定を超えて実務研修に従事する場合、その事情を説明していただくことになりますが、合理的な理由がない場合、在留期間の更新が認められないこととなります。
出典:出入国在留管理庁https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan69.html
外国人に「実務研修」をする予定で、ビザ申請をした場合は、在留期間は「1年」しか許可しませんよ、と言っています。これは、本当に実務研修をした後に「技術・人文知識・国際業務」の業務に就けているかを、ビザ更新の際に確認するためです。なかなか良く考えられた制度ですね。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。
現在の日本では人手不足が深刻です。しかし、人手不足が叫ばれているのは、現場の仕事であることが多く、「技術・人文知識・国際業務」の要件にあるような、学術上の素養を背景とする一定水準以上の業務ではありません。
その為、人手不足を補おうと、本来は資格外の業務を外国人にさせようとする企業は少なくありません。もし、今回ご紹介した「実務研修」を無制限で外国人にさせてよいとなれば、実務研修を隠れ蓑にして「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で、現場仕事の外国人を雇おうとする企業は後を絶たないでしょう。
そうなれば、日本の在留資格制度は意味のないものとなり、形骸化は避けられません。
そうならない為にも、出入国在留管理庁は「「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について」という文書を公開したのだと思います。
以下は今回のブログ記事のまとめです。
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で許容される実務研修について
- 実務研修の取扱
- 「在留期間中」の考え方
- 研修計画等
- 在留期間の決定について
行政書士長尾真由子事務所では、「技術・人文知識・国際業務」で外国人の雇用を考えているけれど、ビザ申請が通るか不安に思われている企業様、「技術・人文知識・国際業務」のビザを取りたいけれど、何から始めればよいのか分からない外国人の方のお手伝いをさせて頂きます。
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