はじめに
単純作業どこまで?
前回のブログ記事では、「実務研修」であれば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格(以下技人国ビザ)の要件である学術上の素養を背景とする一定水準以上の業務でなくとも、一定期間の現場作業や単純作業に従事できることをお伝えしました。
今回は、引き続き現場作業や単純作業のお話となりますが、このことが問題となりやすいホテル・旅館等についてお話していきたいと思います。
「実務研修」における単純作業事例
まずは、前回もお話した「実務研修」が、ホテル・旅館等でどの程度認められるかですが、出入国在留管理庁が「ホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格の明確化について」(平成27年12月)で事例を公表していますので、こちらを見ていきましょう。許可事例、不許可事例どちらも掲載されています。
※ブログ中のこれらの事例はあくまで事例です。あてはまる事項があるからと言って、その一点を取り上げて、個別の事案の許可・不許可をすぐさま判断することはできませんのでご留意ください。
本邦において経営学を専攻して大学を卒業した者が、外国人観光客が多く利用する本邦のホテルとの契約に基づき総合職(幹部候補生)として採用された後、2か月間の座学を中心とした研修及び4か月間のフロントやレストランでの接客研修を経て,月額約30万円の報酬を受けて、外国語を用いたフロント業務、外国人観光客からの要望対応、宿泊プランの企画立案業務等に従事するもの
本邦の専門学校においてホテルサービスやビジネス実務等を専攻し、専門士の称号を付与された者が、本邦のホテルとの契約に基づき、フロント業務を行うとして申請があったが、提出された資料から採用後最初の2年間は実務研修として専らレストランでの配膳や客室の清掃に従事する予定であることが判明したところ、これらの「技術・人文知識・国際業務」の在留資格には該当しない業務が在留期間の大半を占めることとなるため不許可となったもの
出典:出入国在留管理庁ホームページhttps://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan69.html
業務中の単純作業事例
フロント業務に従事している最中に団体客のチェックインがあり、急遽、宿泊客の荷物を部屋まで運搬することになった場合など
出典:出入国在留管理庁ホームページhttps://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan69.html
上記のように、やむを得ず、一時的に技人国ビザの範囲外の業務を行うことは認められています。ただし、技人国ビザの範囲外の仕事ばかりをさせていることが判明した場合は、更新の際に不許可となる可能性が高まります。
「ホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格の明確化について」
出入国在留管理庁は平成27年12月に、「ホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格の明確化について」で、ホテル・旅館業において、どこまでであれば「技人国ビザ」の外国人の単純作業が許されるのかを、審査基準、具体的な事例を含めて公表しました。「ホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格の明確化について」では、次の項目に分けて記載がされています。
- 在留資格に該当する活動
- 申請人が自然科学又は人文科学の分野に属する技術又は知識を必要とする業務に従事しようとする場合は,従事しようとする業務について,次のいずれかに該当し,これに必要な技術又は知識を修得していること。
- 申請人が外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務に従事しようとする場合は,次のいずれにも該当していること。
- 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。
- 具体的な事例
「在留資格に該当する活動」とは
在留資格に該当する活動とは、「入管法 別表第一の二」に書かれた活動、つまり「技人国ビザ」でいうと業務内容のことです。
本邦において行うことができる活動
技術・人文知識・国際業務
本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学,工学その他の自然科学の分野若しくは法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(一の表の教授の項,芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで,企業内転勤の項及び興行の項の下欄に掲げる活動を除く。)
また、「入管法 別表第一の二」の詳しい内容が「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令」に定められています。こちらが❶❷❸の項目になり、これに沿って許可基準と具体例が記載されています。
法別表第一の二の表の技術・人文知識・国際業務の項の下欄に掲げる活動
基準
申請人が次のいずれにも該当していること。ただし,申請人が,外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法(昭和六十一年法律第六十六号)第五十八条の二に規定する国際仲裁事件の手続についての代理に係る業務に従事しようとする場合は,この限りでない。
一 申請人が自然科学又は人文科学の分野に属する技術又は知識を必要とする業務に従事しようとする場合は,従事しようとする業務について,次のいずれかに該当し,これに必要な技術又は知識を修得していること。ただし,申請人が情報処理に関する技術又は知識を要する業務に従事しようとする場合で,法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する試験に合格し又は法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する資格を有しているときは,この限りでない。
イ 当該技術若しくは知識に関連する科目を専攻して大学を卒業し,又はこれと同等以上の教育を受けたこと。
ロ 当該技術又は知識に関連する科目を専攻して本邦の専修学校の専門課程を修了(当該修了に関し法務大臣が告示をもって定める要件に該当する場合に限る。)したこと。
ハ 十年以上の実務経験(大学,高等専門学校,高等学校,中等教育学校の後期課程又は専修学校の専門課程において当該技術又は知識に関連する科目を専攻した期間を含む。)を有すること。
二 申請人が外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務に従事しようとする場合は,次のいずれにも該当していること。
イ 翻訳,通訳,語学の指導,広報,宣伝又は海外取引業務,服飾若しくは室内装飾に係るデザイン,商品開発その他これらに類似する業務に従事すること。
ロ 従事しようとする業務に関連する業務について三年以上の実務経験を有すること。ただし,大学を卒業した者が翻訳,通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は,この限りでない。
三 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。
1、申請人が自然科学又は人文科学の分野に属する技術又は知識を必要とする業務に従事しようとする場合は,従事しようとする業務について,次のいずれかに該当し,これに必要な技術又は知識を修得していること。
基準
① 当該技術若しくは知識に関連する科目を専攻して大学を卒業し、又はこれと同等以上の教育を受けたこと。
② 当該技術又は知識に関連する科目を専攻して本邦の専修学校の専門課程を修了したこと。
※ただし、「専門士」又は「高度専門士」の称号が付与された者に限られます。
③ 10年以上の実務経験(大学、高等専門学校、高等学校、中等教育学校の後期課程又は専修学校の専門課程において当該技術又は知識に関連する科目を専攻した期間を含む。)を有すること。
≪留意点≫
・ 従事しようとする業務は、学術上の素養を背景とする一定水準以上の専門的技術又は知識を必要とするものであって、単に経験を積んだことにより有している知識では足りず、学問的・体系的な技術・知識を必要とする業務でなければなりません。
・ 従事しようとする業務と大学等又は専修学校において専攻した科目とがある程度関連していることが必要となります。なお、①の大学(本邦所在・外国所在を問わない)を卒業した者については、大学の教育機関としての性格を踏まえ、専攻科目と従事しようとする業務の関連性は比較的緩やかに判断することとしているほか、②の本邦の専修学校の専門課程を修了した者のうち、認定専修学校専門課程修了者についても、専攻科目と従事しようとする業務の関連性は比較的緩やかに判断することとなっています。
事例
本邦において経済学を専攻して大学を卒業した者が、本邦の空港に隣接するホテルとの契約に基づき、月額約25万円の報酬を受けて、集客拡大のためのマーケティングリサーチ、外国人観光客向けの宣伝媒体(ホームページなど)作成などの広報業務等に従事するもの
本邦で商学を専攻して大学を卒業した者が、新規に設立された本邦のホテルに採用されるとして申請があったが、従事しようとする業務の内容が、駐車誘導、レストランにおける料理の配膳・片付けであったことから、「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務に従事するものとは認められず不許可となったもの
出典:出入国在留管理庁ホームページhttps://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan69.html
2、申請人が外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務に従事しようとする場合は,次のいずれにも該当していること。
基準
① 翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝又は海外取引業務、服飾若しくは室内装飾に係るデザイン、商品開発その他これらに類似する業務に従事すること。
② 従事しようとする業務に関連する業務について3年以上の実務経験を有すること。ただし、大学を卒業した者が翻訳、通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は、この限りでない。
≪留意点≫・ 当該業務は、外国に特有な文化に根ざす一般の日本人が有しない思考方法や感受性を必要とする業務であって、外国の社会、歴史・伝統の中で培われた発想・感覚を基にした一定水準以上の専門的能力を必要とするものでなければなりません。
事例
本国において大学を卒業した者が、本国からの観光客が多く利用する本邦の旅館との契約に基づき、月額約20万円の報酬を受けて、集客拡大のための本国旅行会社との交渉に当たっての通訳・翻訳業務、従業員に対する外国語指導の業務等に従事するもの
本国で日本語学を専攻して大学を卒業した者が、本邦の旅館において、外国人宿泊客の通訳業務を行うとして申請があったが、当該旅館の外国人宿泊客の大半が使用する言語は申請人の母国語と異なっており、申請人が母国語を用いて行う業務に十分な業務量があるとは認められないことから不許可となったもの
出典:出入国在留管理庁ホームページhttps://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan69.html
3、日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。
事例
本国において大学の観光学科を卒業した者が、外国人観光客が多く利用する本邦のホテルとの契約に基づき、月額約22万円の報酬を受けて、外国語を用いたフロント業務、外国人観光客担当としてのホテル内の施設案内業務等に従事するもの
本邦で法学を専攻して大学を卒業した者が、本邦の旅館との契約に基づき月額約15万円の報酬を受けて、フロントでの外国語を用いた予約対応や外国人宿泊客の館内案内等の業務を行うとして申請があったが、申請人と同時期に採用され、同種の業務を行う日本人従業員の報酬が月額約20万円であることが判明し、額が異なることについて合理的な理由も認められなかったことから、報酬について日本人が従事する場合と同等額以上と認められず不許可となったもの
出典:出入国在留管理庁ホームページhttps://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan69.html
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。
ホテル・旅館等の業務は接客業ですので、予期せずして「技人国ビザ」の範囲外の仕事をしなければならないことが発生する可能性があります。その為、出入国在留管理庁も1秒もその業務についてはいけないとは言っていません。
ですが、制限なしに許可するものではないことから、申請者が申請前に許可・不許可をある程度判断できるよう、「ホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格の明確化について」が公表されました。
これを見る限り、かなり合理的な判断がされていると思いますし、結果的に外国人にとって働きやすい環境が整えられつつあると感じます。
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