外国人バス・タクシー運転手を雇用できる新たな在留資格
バス・タクシー会社で外国人雇用といえば、「永住権」もしくは「日本人の配偶者」などの身分系の在留資格を持つ外国人の方を雇用してきたという会社の人事の方もいらっしゃるでしょう。
ご存じの方も多いかと思いますが、2024年9月に、特定技能に新たに4分野が追加され、バス・タクシー運転手も「自動車運送業」分野の手続きを行うことで、外国人を雇用することができるようになりました。
ただし、9月に行われたのは省令改正のみで、実際に試験が始まったのは2024年の12月ですし、協議会の発足も2025年1月17日と、つい最近の話になります。
私がこの記事を書いている時点では、特定技能でバス・タクシー運転手を雇用している会社は無いはずです。
今回は、初めてバス・タクシー運転手を特定技能の制度を使って雇用しようとする会社の人事の方に向けて、必要な手続きとそれに伴う費用相場、更には節約方法をお伝えしていきます。
必要な手続きと費用相場
主な必要手続き
特定技能「自動車運送業」でバス・タクシー運転手を雇用する場合には、多くの手続きが必要です。また、それに伴い、費用も発生します。以下が主な必要手続きです。
- 外国人を採用する
- 自社支援をしない場合は登録支援機関と契約する
- 雇用契約書と雇用条件書を作成し、外国人にサインをもらう
- 協議会に入会する
- 「特定活動」の在留資格申請を行う
- 外国人に外免切替をしてもらう
- 外国人に2種免許を取得してもらう
- 外国人に新任運転者研修(座学研修・路上走行研修)を行う
- 外国人に日本語研修を行う
- 「特定技能1号」の在留資格申請を行う
手続に伴う費用相場
- 人材紹介会社を通した場合、1人あたり15万円~30万円程度の固定額、または 1人あたり年収の20%~30%程度の人材紹介費用が必要です。
- 特定技能外国人の支援計画に記載された支援の実施を登録支援機関に委託することができます。委託する場合、受け入れ機関は登録支援機関に対し、対価として月額の委託手数料を支払います。特定技能外国人への総合的支援月額は15,000~30,000円(1名につき)に設定しているところが多いです。また、支援ごとに支援額を設定している登録支援機関もあり、その場合の相場は以下の意通りです。
- 入国前事前ガイダンス 1回 30,000~60,000円
- 生活オリエンテーション1回 55,000~80,000円
- 定期面談 1回 10,000~15,000円
- 同行が必要な支援1時間 5,000~10,000円
- 書類作成と在留資格申請を行政書士に依頼する場合の相場は、10万~20万程度です。
- 協議会への入会は無料です。
- 日本にいる外国人を雇用する場合、出入国在留管理署に手数料を支払う必要があります。今のところ手数料は4,000円ですが、4月から6,000円(オンライン申請は5500円)に値上がりします。
- 普通自動車免許の外免切替の手数料は2,550円、交付手数料が2,050円、併記手数料が200円です。詳しくは警視庁のサイトをご覧ください。
- タクシー会社の方であれば、良くご存じだとは思いますが、2種免許取得には、通常20万~30万円の費用が掛かります。一発合格の場合は4万円前後の費用ですみます。ただし、2種免許をあらかじめ取得している外国人を採用した場合には、ここでの費用はかかりません。
- 新任運転者研修は座学と路上走行研修に分かれています。タクシーの場合、座学はそれぞれの都道府県の「タクシーセンター」で行われています。路上走行研修は自社で行っているところがほとんどでしょう。「公益財団法人 大阪タクシーセンター」での座学の研修費は、地域により異なりますが、4,100円または8,800円です。また、大阪の自動車事故対策機構での適性診断は4,800円です。気をつけたいのは、研修中の外国人の給与です。研修中ですので、本来のタクシー業務に就いている場合とは異なる給与額や給与形態を実施している会社も多いでしょう。研修中の給与額や給与形態が異なるのはかまいませんが、必ず日本人に支払う場合と同じもしくはそれ以上の給与額にして下さい。また、そのことは雇用契約を結ぶ際に、必ず外国人に分かる言葉で伝える必要があります。
- 日本語研修は必須ではありません。特定技能で外国人を雇用する場合、日本語能力検定のN3以上を取得して入社してきます。N3とは「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる」レベルですので、それで十分かどうかの判断はそれぞれの会社に委ねられています。外部の研修期間を利用して 日本語教師の派遣を依頼する場合、1時間あたり4,000~10,000円程度が目安になります。ただし、これはあくまで目安であり、費用は研修機関によりまちまちです。
- 「特定技能1号」の在留資格申請を行政書士に依頼する場合は、3の相場に同じですが、これも行政書士によってまちまちです。また、「特定活動」と「特定技能1号」の書類作成と申請を一括で依頼することで、報酬の割引をしてもらえるかもしれません。出入国在留管理署に支払う手数料については4に同じです。
費用を節約する方法
人材採用で費用を節約する方法
人材採用に紹介会社を挟むと、どうしても数十万の紹介料が発生します。費用をかけずに特定技能人材を採用するには以下のような方法があります。
- 日本人と同じように、募集広告から応募してきた外国人を直接採用する
- すでに採用している外国人(永住者や日本人の配偶者など)の知り合いを紹介してもらう
- アルバイトで採用している留学生に、特定技能、日本語の試験と普通自動車免許の試験に合格してもらう
- SNSで自社のアカウントを作成し、アカウントを育てて募集・採用をする
登録支援機関の支援料を節約する方法
「特定技能」制度では、必ずしも登録支援機関に支援を依頼する必要はありません。自社で全ての支援を行うことも可能ですし、一部のみを登録支援機関に委託することもできます。
ただし、慣れないうちは登録支援機関にお願いした方が良いでしょう。登録支援機関との契約は、途中で解約も可能ですし、他の登録支援機関に変更することもできます。いずれは自社支援に切り替えたいという会社も、自社支援の目途が立ってから解約した方が良いでしょう。
また、「特定技能1号」でまとめて複数人を採用する場合は、一人当たりの支援料が下がる傾向にありますので、登録支援機関に交渉してみてください。
行政書士の報酬を節約する方法
「特定活動」と「特定技能1号」の入管に行う在留資格申請の申請者は、雇用する外国人です。ですので、本来であれば外国人が書類を作成し、入管に書類を持参すれば良いのですが、ほとんどの場合それは不可能です。
まず、「特定技能1号」に関する書類の量が膨大です。日本語が不自由な外国人が作成できる量ではありません。また、内容も多岐に渡り、役所から取得しないといけない書類も何種類もあります。誰かが書類を用意して、外国人が入管に書類を提出するだけならば問題は少ないでしょう。
書類の作成は、本来ならば、行政書士でなければ報酬を得てすることができませんが、実際は人材紹介会社や登録支援機関がサービスで行っているところも多いようです。ただし、その分紹介料や支援料に上乗せされている可能性はあります。また、入管に書類を提出することは、申請取次の資格者を擁してる人材紹介会社や登録支援機関であれば、問題なくすることができます。
一度に複数人の書類を作成し、申請をする場合は、2人目からは報酬を下げている行政書士も多いですので、一度ご相談されるのも一つの方法です。
もっとも合法的かつ費用が節約できる方法は、自社で書類を作成して、外国人に入管に行って提出してもらう方法です。途中で頓挫する可能性はありますが、書類作成に長けた人材をお持ちの会社であれば不可能ではありません。
人件費を節約する方法
外国人の人件費を節約するといっても、給与を低く設定してはいけません。入管は外国人への差別的な給与設定を厳しく禁じています。
私がお伝えする節約方法は、できるだけ業務に必要な免許を、採用前に取得している外国人を雇用する方法です。例えば、トラックドライバーであれば、外免切替が済んでいる外国人や、日本で免許を取得した外国人を雇用すると、「特定活動」を省略することができます。つまり、特定活動中に発生する給与や、外免切替の費用を節約できるということです。また、特定活動のビザ取得に必要な行政書士の手数料なども節約できます。
バス・タクシードライバーであれば、自力で2種免許まで取得している外国人であれば、免許取得代を節約することができます。ただし、バス・タクシードライバーに関しては、新任運転者研修を「特定活動」期間中に行う必要がありますので、「特定活動」を省略することはできません。
研修費を節約する方法
できるだけ自社で行うのが、最も費用をかけずに済む方法です。
日本語研修に関しては、登録支援機関の支援に含まれている場合もありますので、一度登録支援機関にご相談ください。また、外部に委託する場合も、オンライン研修を活用したサービスを提供している会社を選ぶなどして、費用を抑えることを考えてみてください。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回は、特定技能「自動車運送業」分野の中でも、特にバス・タクシーに絞って、必要手続きとそれに伴う費用、更には節約方法をお伝えしてきました。
最後に、費用を節約した場合のメリットとデメリットを書いておきたいと思います。
費用節約のメリット
- 少ない金額で特定技能外国人を雇用することができる
- 自社で行うことが増えるため、特定技能外国人雇用のノウハウが蓄積される
費用節約のデメリット
- 時間がかかる
- 自社社員が本業に集中できない
- 途中で手続きが進まなくなる可能性がある
- 重要な手続きを見逃してしまう可能性がある
行政書士に依頼するメリット
私は行政書士ですので、行政書士に「特定活動」と「特定技能1号」の申請書類作成と取次申請を依頼する場合のメリットを最後にお伝えして終わりにしたいと思います。
- 書類の作成、収集が速い
- 法令違反の心配がない
- 制度や法律に関する相談ができる
- 手続きがスムーズに進むことで、業務前の外国人への費用負担が軽減され、結局安くつく可能性がある
バス・タクシーの会社の方で、これからは外国人採用も考えていかなければならないが、何から始めて良いか分からない、やってみたが途中で進まなくなってしまった、というお悩みがございましたら、どうぞ行政書士長尾真由子事務所にご連絡ください。相談料は無料です。